PBWめも
ペチュニア
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麗らかな春の日差しの心地良さにまどろみ掛けた意識を引き戻したのは、 傍らで甘い香りを漂わせる色鮮やかなパフェを、まるで小動物のように頬張る黒い青年の無邪気な声。 「先輩? 眠いですか?」 「んー、ちょっとね。暖かさに負けそうだった、ごめんね」 「大丈夫、わかります」 笑顔を向ければつぶらな瞳が柔らかく細められ、ふわりと大きな尻尾が揺れる。 その柔らかそうなもふもふにほんの少し意識を取られながらも、 僕は食べかけだったケーキのひとくちを、傍らの彼を真似るようにそっと頬張った。 UDCアースでちょっとしたお祭りがあるらしい。 夏祭り程派手ではないがその土地特有の催しで、誰でも参加できる気軽なもの。 それを聞いて彼――木常野都月を誘ったのは僕だった。 妖狐である彼は、まだあまり世界を知らない。 そんな彼が人間の催しを無邪気に楽しむ姿が好きで、昨日の朝突然に約束を取り付けた。 急な申し出だったにも関わらず殆んど二つ返事の了承。 驚いたけれど、彼の声色にも期待が乗っている事に気づけば思わず口元が綻んで。 調子に乗って予定を考えていたら、ほんの少し、 ほんの1、2時間程度ではあるものの、うっかり徹夜をしてしまった。 連日の寒さが嘘のように降り注ぐ柔らかで暖かな日差しは、 季節の代わりを感じさせて心が安らぐと同時に、僕の睡魔に拍車をかけて。 お祭りは夜からだからまだ時間がある。 情けない話だけれど、あまり心配かけるのも申し訳ないし。 途中公園にでも寄ってひと眠りさせてもらおうか、たまにはそういうゆっくりした時間もいいんじゃないかと、 頭の中でプランを組みなおす。 きっと彼は、どこでも喜んで付き合ってくれるだろうから。 「食べ終わった?」 「はい、大丈夫です。この後どうします?」 「ちょっと歩いたところに公園があるんだ。 食後すぐ動き回るのも疲れちゃうし、時間もあるから少し休もうかなって」 「公園! いいですね、行きましょう! 栗花落先輩も、少し寝てくださいね?」 「ふふ、ありがとう。そうさせてもらう」 荷物を持ってカフェを出る。 雑踏の中、背の低い僕の姿は簡単に埋もれてしまいそうになるが、背の高い彼はどこに行っても見失う事が無い。 こちらを気にしてか合わせてくれる歩幅に心の中で感謝しつつ、僕は彼と手を繋ぎ、 他愛もない会話を交わしながら歩いた。 小道を出て大通りに抜ける頃、ほんのり甘い香りが鼻孔をくすぐり足を止める。 お菓子とは違うそれは、僕にとってはとても馴染みの深いもの。 興味のままに振り返ると、そこには一軒の花屋があった。 「先輩、どうしました?」 突然立ち止まった僕に引かれるように、彼も踏み出そうとしていた足を戻し、僕の隣に並ぶ。 そして目線の先を辿り、数度目を瞬かせた。 「木常野さん、お花屋さん入った事ある?」 「依頼の時に見た事はあるけど、入るのは初めてです」 「丁度良かった。ちょっと見てもいい?」 「はい!」 扉をくぐれば店員さんの朗らかな声が僕達を出迎えて。 色とりどりの花々に、僕は自然と心躍る心地がした。 「すごい、初めて見る花もいっぱいだ」 一輪一輪興味津々に眺める彼を横目に、隣の棚へと視線を移す。 ふと、鮮やかなピンクが目に入った。 ポット苗として置かれた、花壇などで比較的よく見るそれは、決して存在を主張する事はなく。 けれど今の僕の心には、その色をしっかりと根付かせた。 「木常野さん、花言葉って知ってる?」 「花言葉? 花によって、色んな意味がついてるやつですよね。でも内容までは……」 花言葉が、どうかしましたか? そんな問いには答えず、店員さんに声をかける。 購入したのはペチュニアの花。 可愛らしいラッピングを施され袋に入れられたそれを、僕は自然と隣で首を傾げる彼へと手渡した。 「これは、ペチュニアっていう花だよ」 「ペチュニア」 「今日付き合ってくれたお礼」 「え、えっ、俺がもらっていいんですか!?」 「世話の仕方は後で教えてあげるから」 花言葉、帰ったら調べてみてね。 なんとなくドッキリが成功したような心地で、一足先に店を出る。 手がふさがる事を考えたら帰りに寄った方がよかったかもしれないけれど、 そんな時間まではこのお店も空いてないだろうから。 慌ててついてくる足音を聞きながら、今頃勢いよく振り回されているのだろう彼の尻尾と、 これから暫くの間話題の中心になるだろうあの花の事を思い、 胸の奥が温かくなるのを感じながら、僕はそっと笑顔を零した。 花言葉:あなたと一緒なら心がやわらぐ
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