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【鉄くずの前の過去】
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【始まり】 ―――自分は、鉄くずから作られたと、言ったけれど ―――つまりは、その鉄くずが、元はなんだったのかという話 その声を、覚えている 『よう、注文したやつ、できているか?』 『来たか、奥にあるぞ』 高すぎず、低すぎない、どこか、茶目っ気の在る声を 『へえ、こいつか』 『注文通りだろ』 『確かに』 忘れない、きっと 『んじゃ、これから宜しくな、相棒』 円盾として生まれたときに聞いた、その声を もし、最初から心があったなら、と言う前提の元だけど 最初の印象は、正直、あまり良くは無かったと思う 自分は、彼のために作られたわけだけど、 その注文が、『とにかく頑丈にして欲しい。飾りは要らないから安くしてくれ』だった おまけに、支払いはツケでとか、言っていた そんな人が、持ち主として、ちゃんと使ってくれるのか もしその頃の自分に心があったなら、不安に思っただろうね その予想は、在る意味では、当たっていた 扱いは荒かったし、そもそも目的以外の方法で使われもした 何もない日、或いは、野営の際に、枕代わりにされた事もあった 酔っ払って、木の棒で叩かれ、楽器代わりにされたこともあった 下手な歌を歌われて、結局そのまま、その歌を覚えてしまった ……鍋代わりにされて、スープを作り始めたのには、正直引いた 最も、手入れは欠かされなかったし、傷も、なるべく直された だから、悪い人では無かったと、思う 彼には、戦いの才能があった 自分を手に、いくつもの戦場を渡り歩いた 最初は、傭兵として 次第に、仲間が集まって、傭兵団の長として そして、どこかの国に召し抱えられて、騎士として 彼は、その名前を、広めていった 同時に、自分のことも、話題にされた 飾りの無い、鋼鉄製の円盾 ほとんど手抜きのようなもので作られて、時には鍋代わりにもされたそれは いつの間にか、『持ち主の想いの強さに応える盾』なんて言われた ……そのことが、誇らしかった 彼も、いつの間にか結婚し、子どもも生まれた 流石に、ある程度の年齢になったら、彼でも落ち着いてきて、威厳のようなものも出てきた その頃には、彼の名は、その国では知らないものの方が少ないと、言われるほどだった 同時に、自分のことも そんな彼も、孫が生まれる頃には引退した 同時に、自分は家宝扱いされて、彼の子に引き継がれた 彼は、冗談交じりでそうしたんだろうし、実際、笑っていたけど 彼の子の方は、真剣な表情をしていたのが、すごく、印象に残っていた 彼は、病気で死んだ でも、ほとんど寿命で死んだと言っても良い状況だった 孫に囲まれて、ひ孫も居た 大往生だ すごく、安らかな死に顔だった それでも、すごく、悲しかった その頃には、自分は、心を得ていた でも、人の姿には、なれなかった 最後に一言、別れの挨拶がしたかった 彼の、ひ孫の1人が、2代目の持ち主だった その子は、彼と同じか、それ以上の才能があった 幼い頃から、大人顔負けの戦い方ができた だから、彼の子孫は、その子の名前を、彼の名前に変えた そしてその子は、彼の2代目を名乗るようになって、自分を扱うことになった その戦場を、忘れられない その子の、初陣だったもの 自分は、その子が守られるようにと、渡された ……でも、できなかった 最悪の初陣だった 味方は、すでに裏切っていて、情報が筒抜けだった 火攻め、毒責めが平然と行われた 仲間割れも起きた そして、その子は、才能があったから、最後まで生き残れた ……いや、最後まで、生き残ってしまったんだ その子は、捉えられた。最後の生き残りとして そして、その子の目の前で、自分は壊された 何度も、何度も、金槌を振るわれて 歪み、割れ、最後には砕け……。そして、鉄くずになった
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