PBWめも
お題:言わないで(フル)
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その知らせは、あまりにも突然だった。 依頼終わりの息抜きタイム。 その辺りは石細工が有名だと言うし、折角だからと手近な雑貨屋の扉に手をかけようとした瞬間、上着のポケットから響いたのはUDCアースで流行ったとあるアーティストのポップナンバー。 音の出どころであるスマホを取り出し耳に当てれば、聞こえて来たのは明るい着メロとは180度真逆の、慌てたような同居人の声。 澪が倒れた。 まるで世界が止まったような感覚に陥ったのは、ほんの数秒。 脳が意味を理解した瞬間、俺の足は動き出していて。 丁度すれ違った仲間の呼び声が聞こえたような気もしたけど、止まる事も振り返る事も出来なかった。 「どうしたの、そんなに急いで」 看護師の注意も意識半ばで聞き流しつつ駆け込んだ病室。 窓際のベッドでゆったりと体を起こした澪の驚いたような目線と、鼓膜を揺らしたいつもと変わらない明るい声色に、無意識に強張っていた体から漸く力が抜けていくのを感じた。 「……それはこっちの台詞だっての。電話で事情聞いてマジビビったんだぞ」 「あぁ、そっか。ごめんね、仕事の邪魔しちゃったかな」 「いや、丁度終わったとこだったしそれはいいんだけどさ」 幸いにも澪に宛がわれていたのは個室だったらしい。 他の患者に迷惑かけなくてよかったと自分の行いを今更反省しつつも、そっと澪のベッド脇に用意された椅子に腰かける。 入り込んでくる日光に照らされ白く輝くシーツに包まれた澪は、僅かに柄が入っているとはいえ纏うパジャマの淡色も相まって酷く眩しく見えた。 まるで、本物の天使にでもなったかのように。 澪の抱える持病については同居人の全員が理解している。 電話越しに感じた焦りから頭は勝手に最悪の事態を想定し、その分無事でよかったという安堵があったのも勿論だが、そんな澪の姿を見ていると、道中受けた説明の中に含まれていた決して喜ばしくない、けれどいつも通りの彼らしい行動に対する悲しみ、そんな時に傍にいられなかった罪悪感が溢れそうで、自然と視線を逸らしてしまった。 察しのいい彼にはもしかしたら気づかれてしまったかもしれないけれど。 「寿命削る技、使ったって聞いたぞ」 「そこまで伝わってるんだ。ギリギリで辞めるつもりだったんだけどね、無理しすぎたみたい」 「ギリギリってなぁ……れーい、お前ただでさえ心臓弱いんだから、もっと自分を大事にしろよな。見てるこっちが冷や冷やするんだっての」 拗ねたように零すのはささやかな反抗心と8割本音。 澪なりの想いや信条もあるのだろうから使うなとは言えない、それでも。 彼はいつだって、あまりにも自分を低く見過ぎているように思うから。 もしも、自分の見ていないところで彼が死んだら。 自分は果たして冷静でいられるのだろうか。 自分だけじゃない、澪に関わる皆。 戦場に立つ以上仕方ない、口ではそう言ってても、いざその時が来てしまったら。 それが自分の手の届かない場所で起きてしまったら。 彼の意思だったとしても、受け入れる事ができるだろうか。 少なくとも自分には無理だと思う。 彼にはいつだって笑顔でいてほしい、幸せになってほしい。 けれどそんな淡い願いも、きっと彼は受け取ってくれない。 「そう、言われてもなぁ……」 フッと、その瞳が陰りを帯びたのを見て、あ、ヤバいと直感で感じた。 窓の外に視線を逸らされ、俺の位置からはその表情は伺えなくなる。 けれど、だからこそ、澪の思考が手に取るようにわかってしまって。 「皆の命の方が、大切だから」 嗚呼、またか。察したと同時に唇が震える。 それが澪なりの優しさなのもわかっているけれど、悲観的な彼の言葉はいつだって鋭い棘のようで。 「どうせ放っといてもいつかは消える命だから」 やめて。やめろ。頼むから、それ以上は。 「皆の幸せを守れるなら、僕は――」 空気を読まず鳴り響いた明るい着メロ。 彼の口が止まったのを見届けて、今もなお鳴り続けるスマホをわざとらしく掲げて見せた。 「ワリ、諒太からだわ。ちょっと出てくるな」 「……うん、行ってらっしゃい」 何か言いたげな視線を振り払うように部屋を出て、音を止める。 本当は、着信など来てはいない。 操作したのは自分。 紡がれる言葉を止めたくて。 戻った時に話を逸らしやすいように。 卑怯なのはわかっているけど、それでも。 「澪にとってはどうでもよくても、俺らにとっては……澪の命が、唯一なんだよ」 関係性なんて関係無い。 澪という存在そのものが、自分達にとっての光で、かけがえの無いもので。 だから、だから頼むから俺の前で。 (死んでもいいなんて、言わないで)
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