PBWめも
お題:好きかも、しれない〜夏輝の場合〜
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「夏輝君ってさ」 「ん、なに?」 「諒太君と凄く仲いいよね」 放課後。 一人教室に残って携帯ゲームしてた夏輝君に、 本を読む手を止めて声をかけた。 「そんな堂々とゲームしてたら没収されるよ?」 「だいじょぶだいじょぶ、先生今日部活顧問で忙しいだろうし。 んで……なに急に。諒太がどした?」 「今日も待ち合わせだろうな、と思って」 「あー?」 ぴこぴことボタンを押す手は止めないままに、首を傾げながら天を仰ぐ夏輝君。 ……画面見なくても大丈夫なゲームなんだろうか。器用だ。 大方そんなに一緒にいたつもりもなくて、記憶を辿ってるのだろう。 無意識で一緒にいられるって、凄い事なのに。 「あぁ、まぁ……そうだな、待ち合わせ」 「やっぱり?」 「あいつが誘って来んだよ。家近いからさ」 「懐かれてるねぇ」 「毎回菓子屋付き合わせられんのは勘弁してほしい」 「あははっ、お財布管理大変だー」 少しだけ羨ましい。 そんな風に、いつでも一緒にいれるような関係。 どんな出会いも自分なりに大切にしてるつもりだけど、 やっぱり二人ほど親しくなりきれない。 紫崎君にも言われた。原因は僕が臆病だから。 近づかれたら逃げて、まるで猫みたい。 今ならその言葉の意味も自覚できる。 「澪も待ち合わせてんじゃねぇの?」 「そういうわけじゃないよ。この本、今いいところだから。 キリのいいとこまで読んだら帰るつもり」 「り、理由が賢そう……俺なんかとは大違い」 「大袈裟だよー。いいと思うよ? それだけ信頼出来る相手がいるってさ、幸せじゃん。 正直羨ましいよ」 視線はページに落としたまま、零した小さな本音。 どうせ夏輝君は気づかないだろう。 その言葉に隠した真意なんて。 気づかれなくてもいい。 これはただの我儘だから。 けれど少しの間の後、鞄を漁るような音がして顔を上げると、 丁度夏輝君がゲームを片付けているところだった。 諒太君が来たのかと思って入り口を見ても誰もいない。 だからもう一度視線を彼に戻すと、今度はスマホで何かを打ち込んでいるのが見えた。 「夏輝君?」 「ん……よし。 澪、今日俺らと一緒に帰るぞ」 「えっ?」 「お前ん家までは送るからさ。 とりあえず菓子買って、菓子屋の側のマック……より、澪ならカフェの方がいいか。 そこ寄ってちょっとだべって、満足したら帰る。いいか?」 「え、あの、ちょ」 「諒太もうじき委員会終わるらしいから。玄関で待ち合わせ。 家族には連絡入れとけ」 「まっ、あっ……」 反論する前に持っていた本を回収され、僕の鞄ごと持たれてしまった。 ちゃんと栞は挟みなおしてくれるあたり気は使ってくれてるみたいだけど。 「強引」 「こうでもしなきゃ来ねぇだろ、お前すぐ遠慮するし」 「ダメなの?」 「今日はダメ」 鞄を取ろうとしたらひょいっと高く持ち上げられる。 身長差まで駆使されたらどうしようもない。 仕方なくささやかな抵抗として一睨み残しながら、僕もラインで姉に連絡を入れた。 すぐに既読が付いて、返って来るスタンプ。 可愛いキャラクターの横に書かれたいってらっしゃいの文字を見て、僕はその画面を彼へと向けた。 「連絡、したよ」 「はいよくできましたー。んじゃこの本は返す」 「カバンは?」 「重いだろうから俺が持つ。あ、もう読まねぇならしまっていいけど」 「……いいよ、もう。読まない」 僕の手に返された分厚い本。 先ほどまで見えていた悲しい場面は、もう表紙に隠されてなにも見えない。 孤独な主人公の辿る結末。 少しだけ続きが気になったけれど、ハッピーエンドは遠そうだから、悲しくなる前にやめることにした。 夏輝君が持ったままの鞄に本を入れて、チャックが閉じられるのを見届けて。 そのままじゃあ行こう、となるのかと思ったのに。 「澪も、同じだかんな」 「……え?」 「澪も俺にとっては、大事な友達。多分諒太にとっても。 だから遠慮とか要らねぇよ。 ちょっとはあいつ見習ってさ、一緒に帰りたい時は声かけてくれりゃいいし、甘えたきゃ甘えてくれていいし。 俺らだけじゃなくって、鉄馬も紫崎も同じだと思うぞ? 皆澪の事好きだから、澪の頼みなら絶対誰も断らない。 それでも気になるんなら、こっちから誘ってやるからな」 「……」 「羨ましがる必要も無ェだろ、澪も俺らの一員なんだから」 「……晃君は?」 「あいつは……あー、断らねぇだろうけど、ま、危ないからやめとけ」 エスパーかと思った。 大きくて温かな手が、僕の頭をぽんぽんと撫でて。 間近で向けられる笑顔が眩しくて。 思わず声を無くしてしまって、頭を押さえるだけで精一杯だった。 「ほれ、諒太が先着いたらうるさいぜ? 行くぞ、澪」 当たり前のように言って、離れていく。 満足げなその背中が少しだけ悔しくて、腹が立って。 わざと走って追い越したら、今度は夏輝君から慌てた声が漏れた。 してやったり。 「諒太君がうるさいんでしょ? 先行くからね!」 「ちょっ、は、走るなって! 短距離はお前の方が速いんだから!」 追いかけてくる足音に高鳴る鼓動。 火照る頬は、きっと急な運動だけが原因ではない。 わかってしまった。 差し伸べられた手に。温かな笑顔に。 包み込まれた瞬間に、気づいてしまった。 感じていた羨ましさの、本当の意味。 自覚してしまったら止められない。 聞こえないように小さな声で、そっと零した甘い感情。 「好きかも、しれない」
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