PBWめも
昔語り
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私は旦那様の奥様に作られました。 奥様は腕の良い人形師でしたので、旦那様が戦いやすいよう私を作り、旦那様の思うように私は動きました。 お子様の居なかったお二人は、私の事をその代わりとして見ていた面があるようです。戦いの場に出ますから、多かれ少なかれ壊れたり等はいつもの事でしたが、いつもとても丁寧に手入れをして、時折色々な話を聞かせてくださいました。 私が作られて十年ばかりした頃でしょうか。奥様のお腹に新しい命が宿りました。その時のお二人の喜びようといったら! ずっと待ち望み、諦めかけていた矢先の事でしたから、旦那様は奥様を抱えてクルクルと回って、怒られていましたっけ。そんなお二人を見ている私まで嬉しくなりました。 けれど、幸せは長くは続きませんでした。 旦那様と私が仕事に出ている間に、化物に奥様が襲われたのです。旦那様はそれを討伐しようとしました。ですが、私が壊れることを嫌い、左の手足を失いました。化物は封じるのが精一杯。 奥様は今も眠られたまま。お子様は、生まれることなく…… それ以降、旦那様は猟兵を辞められ、私は奥様のお兄様が営まれる寄席の倉庫へと仕舞われました。 時折旦那様が来てくださいましたし、甥子様が埃を払ってくださったりしましたが、二十年、ただただ何もできぬ己が身を呪い、旦那様と奥様の悲しみを思い過ごす日々でした。 ある日の事、今までと違う気配を感じました。倉庫へと入ってきたのは今までに見覚えのない青年。短い癖のある短髪に緑の着流し。若紫色の目は何かを探すようにキョロキョロと動いておりましたが、私と目が合うと一瞬ギョッとしたような顔をしました。けれども、私の側に来るとまじまじと眺め 「なんで、人形?」 と首をかしげておりました。 今だから言えますが、この時私は彼に親近感に似たものを感じておりました。そして同時にお子様が生まれていたならば、このくらいだったのだろう、と。 その後も彼は何度か倉庫へと来ましたが、その度に視線を向けてしまったのは、仕方ないこととしていただきたく。 更に一年ほどたったある日。久しぶりに私は喚ばれたのです! 旦那様がお持ちの手袋が言霊に反応すると、私をその糸の先へと導く。 それが奥様が私と手袋に刻んだ術 ですが、その時の私を喚んだ言霊は旦那様のものではありません。 「!?」 「ははっ。人形も君を気に入っているみたいだな」 こうしてヤドリガミであった青年―私は若旦那とお呼びしています―が私の新たな繰り手となりました。
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