潰した死体の数は、数えてなかったけれど
100は、超えていたと思う
最後の1人を、潰し殺して
……そして、自分は、その場に倒れた
自分が、戦えていたのは、100年分の怨念があったからだった
『持ち主の想いの強さに応える盾』、その力が、歪んだ結果
自分は、『負の感情を喰らう指潰し』になっていた
そして、100年分の怨念を、全て使い切り……、自分は、消えようとしていた
それで、良かった
主を失い、意味の無い殺戮を行った自分に、生きる意味は無かった
だから、そのまま、薄くなっていく身体を、ぼんやりと見ていたら……
彼らが、現れた
『やっほー♪ 元気にしているかい?』
1人は、白い仮面を付けた、にやけた笑みを浮かべる、痩せ型のモノクロのピエロ
『ずいぶんと、ボロボロですね……』
1人は、全身を手の先から顔まで包帯で包み、その上から執事服を着た青年
『まあ、あれだけ暴れりゃあ、仕方ない』
1人は、上半身裸で、顔に木彫りの面をつけた、大柄で全身傷だらけの男性
『惚れ惚れする暴れっぷりだったからの』
1人は、自分の倍近い体格を持つ、牛頭で黒曜石造りの、黒鬼の男性
『ふむ、想定通り、消えかけのようですね』
1人は、顔が無機質な仮面で覆われている、メイド服を着たサイボーグの少女
『確かにね。……でも、それはつまらないわ』
1人は、黒い豪奢なドレスを着て、顔をベールで隠した女性
『何分、責任もとってもらわないと』
1人は、白いシンプルな着物姿で、顔を紙で隠した黒髪の女性
一目見て、分かった
彼らは、自分が戦った、拷問具達だと
そして、責任となると……
『敵討ち、かな』
その時初めて、声を出したかもしれない
その声は、あの子のものそっくりだった
『いやいやいや、そうじゃないのさー』
『あ、ちょっと皆は黙っててね。混乱させたくないし、すぐ終わるからー』
歌うような声色で、ピエロが、他の器物の代表として、語りかけた
『君さー、あいつら、皆殺しにしちゃったよね』
『だから持ち主が、もう居ないんだよねー』
『このままだと、ずっと放っておかれるかもしれないのさ!』
そんなのつまんなーい。なんて、言ってたね
じゃあどうすれば、なんて言う前に、ピエロはそのまま自分に言った
『だから君には、主になって欲しい!』
『ここに居る7種の拷問具達の、主としてね!!』
正直、絶句した
今ここで、消えるつもりだった自分に
生きる意味の無い自分に、主になれと?
『なぜ?』
自分は聞いた。なぜわざわざ自分を主にしたいのかと
貴方たちも、立って歩けるじゃ無いかと
そして、道化は、息を吸い込み―――
『これを見ている観客の皆々様!』
『遙か天の彼方から見下す神々か、或いはその辺の精霊か、或いはもっと別のものか』
『なんにせよ、一連の出来事を見ていたもの達よ!』
『―――この少年、どう思った?』
『悲しき悲劇の、或いは復讐譚の主人公だろうか?』
『同情したものもいるかもしれない、』
『関係ないものまで殺すのはどうかと、批難したかもしれない』
『されど、観客の皆々様!』
『ここに居る道化は、こう愚考するのです!!』
『―――この少年の、笑顔が見てみたいと!』
『悲劇の主人公が、幸せになる姿が見てみたい!』
『復讐の主人公が、大切な人々と共に歩む姿が見てみたい!』
『ああ、なによりも!』
『今まで、運命に翻弄され、苦しみ、傷ついてきたこの少年が!』
『もしもこの先、生きていくことによって!』
『―――「幸せだ」と、笑うようになったなら!』
『それはなんと痛快なことでしょうか!!!』
『ここに居る道化は、それが見てみたい!』
『つまらない悲劇よりも、退屈な復讐よりも!』
『この世になんの意味も見いだせていない少年の、その欠伸が出そうなほどなまでの普通の生涯の方が!』
『―――この道化には、きっと、面白いと思ったのですよ』
他の器物が、笑みを浮かべながら見守る中で
わざわざ、振り付けまでして、道化はそう言った
ああ、つまりは
『自分がどうなるのか、見てみたいからか……。悪趣味、だね』
『悪趣味で結構さ! 元より、善悪気にしないたちなんでねー♪』
ああ、そう笑う道化の姿に、彼の姿が重なって見えたのは、きっと、気のせいだろう
……でも、なんだか、心の奥底で、何かが動いた
そんな、気がしたんだ
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