※これは、彼女が一歩を踏み出す(
http://tw5.jp/adventure/replay/?scenario_id=22353 )よりも、ずっと前のお話です。
宿敵設定、宿縁邂逅依頼で語り切れなかった部分を補完する為の、PLの自己満足なアンオフィシャル駄文です。
閲覧は自由ですが、此方で得た情報は御覧になったPL様のみに留めておいて下さい。
かりんが話していない情報を、PC情報として扱い、旅団の雑談等で話題に出すことはお控え頂けると嬉しいです。
仁江・かりんPL
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2017年12月17日(日)
自然豊かな山の奥でぬくぬくと大切に育った"彼女"が突然に放り出された街は、とても煌びやかで。
夜なのに昼間のように明るくて、目がとってもちかちかしました。
手足の生えたランドセルと一緒に街を歩いていると、人々に声をかけられました。
「ねぇ、あなたもケルベロスなの?」
「けるべろす?」
「それ、ケルベロスの人が連れているやつでしょう?サーヴァント、ってやつ!」
「僕達の街を救ってくれてありがとう!ケルベロス!」
唐突な歓迎ムードに、彼女の頭の中は『?』でいっぱいです。
「名前は?」
「かりんです!」
「名字は無いの?」
「みょうじ、って何ですか?」
「え!?名字は、その、名前の他の名前って言うか、何て言うか……」
「他の名前……兄様じゃない人達は、かりんを『にえ』って呼んでましたよ!」
「にえ……嗚呼、昔行った観光地で『仁江』って海岸があったっけ。その辺りの人なの?」
「わかりません!」
「お兄ちゃんと逸れちゃったの?」
「わかりません!でも、兄様が大事なものをくれたからだいじょうぶです!」
行くところがない、と言うと。街の人はランドセルを抱えた見ず知らずの少女を家に泊めてくれました。
どうやらこの世界では『ケルベロス』と言うものは大変信頼されているようです。
丁度、街で大きな戦いがあった直後だったこともあり、
街の人々は、この小さなケルベロス(らしき)少女に、とても親切にしてくれました。
―――夜も更けて。
ランドセルは、自分の身体の中から一冊の本を取り出しました。
彼女に自分を託した、彼女が『兄様』と呼ぶ人が書いた日記のようです。
流石にランドセルに目はありませんので、
ランドセルの形をしたミミックは、もやもやとしたエクトプラズムで頁をなぞり、記された情報を読み解きます。
彼女が育った場所は、とある『かみさま』が支配する場所でした。
桃の木の神は、命をご飯にして、不思議な果実を実らせるのだそうで。
神様に捧げられるご飯達は『にえ』と呼ばれ、食べられるその日まで大切に大切に扱われるそうです。
何故なら、ご飯が美味しければ美味しい程、贄との相性が良い程、神様の実は大きな力を得るのだとか。
遥か昔に神様に敗北した、その地に元々住んでいた人々は、皆。贄か、或いはその飼育係となって。
神様の為に、長い間美味しいご飯を作り続けてきたのだそうです。
そんな閉ざされた土地で、彼女は生まれ育ちました。
長い間、命を糧にする神が君臨していた大地には、贄となった命達の想いが『惨劇の記憶』として染み付いていて。
彼女には、それを察知し、魔術として扱う才能が産まれながら備わっていたのです。
かみさまはおおよろこびです。
特別な力を持った贄は、神様に特別な力を齎し、素敵な果実を実らせるでしょうから。
神様は飼育係に、彼女を特に、特に大切に育てるようにと命じました。
ぴかぴかに綺麗な魂と元気で健康な身体を持ち、
死を糧にする、特別な力をさらに磨き上げるように、と。
新人の飼育係は、神様に言われた通りに贄を育てます。
ですが、たったひとつ。
たったひとつだけ、神様が予想もしていなかったことが起こりました。
泣いたり、笑ったり、何の疑いも不安も無く、純粋に自分を慕う小さな贄に、
いつしか飼育係は『愛情』を覚えてしまったのです。
親が子を育てるように、小さな命を大切に大切に育てていけば、その感情を覚えるのは当然だったのかもしれません。
ふたりきりのときは、飼育係は贄を名前で呼ぶようになりました。
流石に自分の名前まで呼ばせてしまっては、周囲が不審がるかもしれないので。
読み聞かせた絵本の中に出てきた『兄』と言う呼称で呼ぶことだけを許して。
傍から見れば『何も知らずに、自分を神様に食わせる為に育てている人間を兄と信じて従う、純粋で哀れな贄の少女』と、映るようにしたのでした。
そして、数年。
惜しみない愛情を受けて健やかに育った贄の少女は、ついに神様の元へ………向かうのではなく。
何故か、段ボールの箱に入れられました。
絵本を読んだ時に『いつかがっこうというところにいってみたいです!』と笑った彼女が欲しがっていた、真っ赤なランドセルと一緒に。
飼育係は、知ってしまったのです。
死を繰る力を持つ贄を糧に実った果実は、人に、神に、世界に多くの死を齎すと。
他の神々を殺め、桃の木の神様がこの星を吸い尽くすようになると。
この先には、贄の死が、全く報われない未来しかないと。
飼育係は、知ってしまったのです。
だから、別の未来を歩むには、こうするしかなかったのです。
『これからは、自分が好きな道を一歩一歩前に進んで、自由に好きなように生きて良いんだよ。』
『かみさまのごはんじゃなく、もっと素敵な、自分が好きなものに、きっとなれるよ。』
そのときに、ぼくはきみのそばにいないだろうけれども。
最後の言葉は、彼女には聴こえなかったのかもしれません。
段ボール箱はそのまま、遠く遠くに運ばれて。
だれかのごはんでしかなかった少女の物語が、今、ここから始まったのです。
「そう言えば、きみの名前は何と言うのですか?」
翌朝、少女はランドセルに尋ねます。
ランドセルは、少し考えるような素振りを見せてから。
空中に、エクトプラズムで『一歩』と、文字を書きました。
「あ!かりん、その字読めますよ!『いっぽ』と言うのですよね!兄様が教えてくれました!」
……本当は、読み方が違うのですが。
少女が喜んで呼んでくれているので、ランドセルはその日から『いっぽ』と名乗ることになりました。
あの日、ランドセルが書いた名前は、『一歩』と書いて『かずほ』と読むのです。
それは、彼女がずっと『兄様』と呼んでいた人の、名前。
それを知っているのは、真っ赤なランドセルと。
お日様のように温かい、ピンク色の花の髪飾りだけなのです。
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