PBWめも
いじめっ子の真実 ~紫崎編~
作成日時: 2018/08/23 02:05:02
初めは、弱い奴だと思っていた。
男のくせに一人じゃなにも出来ない、弱くて情けない奴だと。
そう、思っていた。
【いじめっ子の真実~紫崎編~】
初めの頃は、関心なんて無かった。
一人のガキがいじめられている。
当時違うクラスに居た俺の周りでも、それは有名な話だった。
なにせそのいじめは極一部の生徒の間で行われているような小規模なものではなく、入学式から僅か三日で既にクラスぐるみのものへと発展していたから。
本来無関係な筈の俺のクラスの奴等も、何度か気晴らしに参加したことがあると言っていた。
精神的、そして肉体的な集団での暴力。
日に日に増えていく体の傷。
なにがきっかけか知らないが、あいつは自分のクラスどころか、学年の奴隷として噂の的になっていた。
実際俺自身、いじめの現場を目撃したことがある。
けれど関わる気も起きずに素通りした。
いつもいつもされるがままで。
抵抗しないあいつの態度に、呆れていたのが正直なところ。
呼び出しなんて聞かなきゃいいのに。
追いかけられたって逃げりゃいいんだ。
職員室でも保健室でも、逃げ場は用意されている筈だった。
だがあいつはそれをしない。
達者なのは口だけで、俺はあいつが本気で拒むところなんて見た事が無い。
何処にでも馬鹿正直にホイホイ付いて行っては、酷い目に合わされて。
何度繰り返されても学習しない。
自ら望んで受け入れてるとか正真正銘のドMだとか、周りに好き勝手言われてたって、これじゃあ文句は言えないだろう。
だから敵が増えるんだ。
心の中で呟くが本人には教えない。
一番の理由は、面倒だから。
戦う意志の無い奴に手を貸したって、ろくなことにはならないと予感していた。
興味なんて無かった。
俺は俺で、自由に過ごしたかった。
そんな気持ちに変化が訪れ始めたのは、二学期に入った辺りだろうか。
正確な時期は覚えていないが、大体それくらい。
偶然、あいつらの教室でコソコソやってる男子生徒を見つけた。
覚えのある後ろ姿。
そうだ、いじめっ子の一人で確か……小林、とかいったか。
普段は煩いくらいに明るくて人懐っこい犬みたいな性格。
それが何故あのグループにいるのか、前々から不思議だった。
あんなお遊びに自分から参加するような意地の悪い男には見えなかったが。
あいつの鞄になにかを入れた。
新たな命令でも出されたのか。
辺りを警戒しつつ走り去る小林。
隠れながらなため一瞬だったが、その頬が濡れているのを俺は確かに見た。
あいつは今の時間なら図書室だろう。
今学期に入ってから追加された、あいつの新しい休憩所。
少しは学習し始めたらしい。
俺も含めだが、奴等自由人には図書室の静まり返った空気は息苦しいだろう。
いくらストレスが溜まっていようと、あんな場所まで追いかけて行こうとは思わない。
数少ない安全地帯。
さっき引きこもるのを見かけたばかりだから、暫くは出てこない筈だ。
鞄を置いて行ったのは爪が甘いと言わざるをえないが。
少しだけ、興味が湧いた。
教室に入りあいつの鞄を漁る。
教科書、ノート……ページを捲ると悪戯書きも見られるが、今書かれたものではないようだ。
女みたいに綺麗な字。
その上からデカデカと上書きされた、モノクロの悪口達。
後半のページはボロボロに切り刻まれ使い物にはならなそうだが、紙の原型を残した僅かな隙間をぬって授業の続きが記されている。
新しいものを買う気は無いらしい。
勿体ない精神でもあるのだろうか。
或いは、知られたくない人がいるか。
調べやすいよう何冊かを机の上に出し改めて鞄の中を見ると、底の方に小さな単語帳があった。
まるで隠すような不自然なしまい方。
拾い上げ中を見ると、そこには別々の人物が交互に書き込んだような跡があった。
『なんで言わねぇの?』
『なにが?』
『いじめのこと。
担任はともかく、保健の先生にくらい言ったっていいんじゃねぇの?
逃げ場にしてんじゃん、お前』
『なに、心配してくれてんの?』
『そうじゃねぇよ。
ただお前、そういうチャンスはいくらでもあるだろって話だよ。
先生達には気に入られてんのに、なんでそうしないのか不思議で…』
『知ってるよ』
『は?』
『朝倉先生は知ってる』
『俺らなんも言われてねぇけど?
知ってたら普通怒るだろ』
『僕が言ったから。
知らないフリしてくださいって。
皆を怒らないでくださいって』
『なんで』
『皆のこと好きだから。
勿論、夏輝くんのことも。
だからいいんだ』
『お前馬鹿じゃねぇの。
このままじゃ悪化する一方だぜ?』
『やっぱり心配してくれてるんじゃん。
僕なら大丈夫。
夏輝くんは今まで通り、自分の身だけ護って。
一時でも仲良くしてくれてありがとう』
なるほど。
裏切り者って小林の事か。
入学式にあいつに声をかけた、唯一の生徒。
確かに利用価値は充分だろう。
暫く続く空白のページ。
その返事は一番最後に。
『これ、見たら燃やすかバラバラにして捨てとけ。
あいつらに見つからないようにな。
澪、ごめん』
どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。
泣くくらいならはっきりさせればいいのに。
極端に言えば、善か悪か。
中立になるから辛いんだろうが。
「……」
真相を知って、溢れたのは大きな溜め息。
俺の認識に一つ訂正を入れるなら、あいつは弱いだけじゃなかった。
とんでもない大馬鹿モンだ。
甘過ぎる。
そんなんじゃ悪化するだけ、自分が一番よくわかってるだろうに。
ほんと、救いようがねぇな。
ただ見守る価値はありそうだ。
小林もまた然り。
その日から俺は、あいつ等の観察を始めた。
毎日いじめの現場に出向いては遠巻きに眺めるだけ。
焦れったくて仕方ないが、暇潰しにはなっていた。
それから二年になって、あいつらと同じクラスになって。
晃から声をかけられた。
新しいリーダーになってほしいと。
俺はそれを断った。
群れるのが嫌いということもあったが、丁度良いと思ったのだ。
あいつらを試すいい機会だ。
その為には俺がリーダーになっちゃ意味がない。
いつでも単独行動出来るようにしておかなければ、この作戦は成立しないから。
動くためのきっかけも見つけた。
偶然だが、俺の家のすぐ近くで、あいつが年上のナンパ男を一人で撃退するのを見た。
毒舌だけでなく、鋭い蹴りまでオマケに付けて。
思っていたより強いのかもしれない。
だから尚更試したくなった。
あいつの本気を、見たくなった。
幸いみんな俺を恐れているようだったから、その感情は利用した。
あいつへのいじめに限度を設けた。
意識を保てる程度に留めさせ、あいつがいつでも行動できるようにした。
あとは傍で眺めるだけ。
ただ、問題はあいつの考え方。
いくらきっかけを与えても全く動きやがらない。
奴らを信じきってるというかなんというか……諦めてると言い換えても間違いではないのかもしれないが。
これ以上は待てない。
だから俺も、動くことにした。
「お前、いつまで隠してんだよ」
「え?」
雨の中、二人きりで。
言いたいことは言った。
というより怒鳴り散らした。
そしたらあいつも怒鳴り返して来た。
なんだよ、やっぱやりゃ出来んじゃんよ。
それを全員の前でやってみろよ。
見せつけてみろよ。
テメェの本当の強さを。
綺麗事ばっかじゃ解決しねぇ。
そういう力業が近道になる、そんなことだってあるんじゃねぇのか。
やれることはやった。
あとは全て本人次第。
俺を認めさせてみろよ。
そしたら俺も友達買って出てやるよ。
ついでにボディーガード役もな。
最強の味方だぜ、悪くねぇ話だろ?
だから。
「紫崎くん」
「あ?」
「あの時、ありがと。
助けてくれて」
「……なんの話だかわからねぇな」
「じゃあもう言わない」
弱くて馬鹿で、素直じゃないガキ。
護ってやるから。
だから精々そこで、笑っていやがれ。
それがお前の新しい仕事だ。
なぁ、澪?
俺からの命令、ちゃんと聞かねぇと……お仕置きだからな。
覚悟、しとけよ。
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