出水宮カガリ 覚書・真

作成日時: 2020/01/19 04:48:41

真実の記憶

・黄金都市とは
 「出水宮之門」を城門とする城塞都市。正式名称は「常世神都(とこよのみやこ)」。
 UDCアース日本の明治時代中期に発生した、邪神により産み出された夢想の都。

 ――という記憶は、サクラミラージュがグリモアベースに発見されるまでのカガリの思い込み。

 「常世神都」。
 その正しい姿は、サクラミラージュの明治時代中期に発生した、とある女神の影朧によって生み出された都である。

 この都に飢えは無く、貧しさも無く、病も死も老いも無い。苦しみが無いので争いも無い。
 正確には、人々はそれを「感じない」。
 この都市に入った時点で、人々は一人の例外もなく「出水宮之門」をくぐる為である。
 幻朧桜によく似た紅い桜が街の中央に聳え、一年中花弁を散らしている。
 香りが強く、これが更に人々の判断を鈍らせる。

 神都に入った人々は黄金の屋根を持つ住まいに住む。黄金の屋根は、真実加護を与えてはいた。
 「女神への贄に捧げられる日まで」決して死なない、という加護を。
 都での生活が長くなり、加護を受け続けた人は、3つのどれかになる。
 女神と直接言葉を交わす神官か
 都の外で女神への贄を探す信者として覚醒するか
 完全に意思を閉ざし、眠りについて、贄となる日を待つか。

 ごく稀に、この加護を跳ね返すほどの強靭な精神力を持つ者もいる。
 カガリが覚えている中で、一人だけいた。
 ――都を腐らせていた、と認識していた、あの妖狐である。

・出水宮之門とは
 外から来る人々を受け入れはするが、都に入る人々をその眼で見下ろすことで「意思」を奪う呪いをかける。
 この効果は永続しないが、城門として日々続けることで呪いは蓄積され、やがて意思を閉じてしまう。
 また、この門は「内から出す」事は決してなく、稀に都の異常性に気付いて脱出しようとする人々をやはり見下ろし、その意志を挫いてしまう。

 なお、信者として贄を探しに出ていくものは、都に走っていた唯一の汽車(一方通行)を利用していく。
 帰る時は門から入らねばならないが。

 元々「出水宮之門」は、黄金都市の主を封じていた大岩が砕けた(砕かれた)跡地に建った門である。
 砕かれて神力が衰えたとは言え、大岩の神格はいつか女を再び封じんとその機会を待つため、「門の礎」となり、ヤドリガミ「出水宮カガリ」に宿ることで永らえてきた。
 カガリはこの「自分ではない何か」を早くから認識し、初めは「百年の孤独から生まれた『抑圧の化生』」と認識していたが、
 最近になって「化生ではなく、大岩のように盤石でよいもの」と認識するようになった。
 呼びかける時は「磐戸大神(いわとのおおかみ)」、「いわとの」と呼ぶ。
 (大岩の神格からは、「鐵(くろがね)の門」と呼ばれる。古風な口調)

・「常世神都」の主
 常世神都を生み出した影朧。その前に、その元となった女神の話が必要である。
 その女神の成り立ちは、国生みの女神によく似て非なるもの。
 神代の頃、夫と仲睦まじかった彼女は、病を得て先立ってしまった。妻を愛していた夫は、涙ながらに彼女を葬った。
 死の世界――生きては下れぬ死の泉へと、彼女を沈めたはずだった。
 ところが、夫を愛するあまり彼に忘れられる事を恐れた妻は、泉から這い上がって蘇った。
 愛した妻とは言え、身体の半分を腐らせ、死の穢れに塗れた姿に夫は恐ろしくなった。
 彼岸花の道を駆け抜け、追いかけてくる柘榴の枝を切り払い、命からがら彼女から逃げ出し道を大岩で塞いだ。
 この大岩が原初の境界。生死を隔てる境界。後にカガリが「磐戸大神<いわとのおおかみ>」と呼ぶ大岩である。
 妻との絶縁を言い渡す夫に、妻は呪詛を込めて。永劫消えぬ愛を込めて、言い放つ。
 「愛(うつく)しき背の君、忌み給え――」
 黄泉の神として、現世の神を永劫呪詛することで。己を畏れさせることで。忌み嫌わせることで。

 愛しい人、私を永遠に忘れないで、と。

 ――時代は下り、明治時代の中頃。
 世界を隔てていた大岩の神力は弱る一方で、黄泉の女神の呪詛は膨れ上がり、ついには弱った大岩を砕き影朧として──『愛国主』黄泉津比売神(うつくしくにぬし・よもつひめがみ)として顕現するに至った。
 影朧とは言え、元は女神。街ひとつを水害で押し流し、そこへ当世風の都を再現するなど造作もなかった。
 しかし、元女神とはいえ影朧。不安定な存在なのである。己の身一つでは存在を維持する事も覚束ない。
 すぐにでも我を失って、有象無象の悪霊と成り果ててしまいそうで。

 それでは、意味がない。あの人を畏れさせ、憎まれる私でなければ。

 だから、己を匿わせる者を探した。か弱い女と憐れまれる事も甘んじよう。あの人に憎まれる為ならば。
 そのように、己を庇護する者を探す中で。一度だけ、己を救おう、などと考えていた妖狐がいた。カガリが唯一覚えていたあの女である。名は葛葉美香(くずのは・みか)。
 それでは意味がない。あの人に憎まれる私でなければ。
 だから、呪詛して殺した。贄を求め、人の魂を求めるようになった。
 あの人に、憎まれなければ。

・黄金都市の滅亡
 都は、滅びるべくして滅んだのである。

 美香は、黄泉津比売神(カガリはこの女神の影朧を『よもつひめ』『ははなるきみ』として認識)が自らを匿わせようと招いた、何人目かのひとだった。
 旅人だった美香は当初、この不思議な都市を珍しがり大層興味を持った。そして、調べ出したのだ。
 彼女は――その強靭な精神力で、「加護」を跳ね除けていたのだ。
 更にその調査結果をもとに他の贄の人々も説き伏せ、黄泉津比売神をも説いて都からの脱出を図った。
 彼女は――「英雄」、だったのだ。猟兵ではなく、その強い精神力によって「勇気」を得た、得てしまった、一般人の。
 しかし門はひとびとを逃がさず、黄泉津比売神も美香の説得を聞き入れなかった。聞き入れるわけに行かなかった。
 黄泉津比売神は美香が二度と人々を扇動しないよう、その心も体も呪い、侵し尽くした。二度と現世へ戻れぬように。幽世へも渡れぬように。
 今頃は新たな影朧として、帰る場所もなく彷徨い歩いているのだろう。

 都の滅びは、行方不明になっていた人々を探していたユーベルコヲド使い達によるものだった。
 人々の魂を求めるだけでなく、いずれは周囲の街ごと巻き込んで洪水で滅ぼしかねない、危険な黄金都市。
 正常な意志が残っていた住人は帝都桜學府に保護されたものの、人々の多くは都市の危険性を理解していないままだった。
 あのまま、あの黄金郷で過ごしていたかったと残念がる者さえいた。
 二度と再び、人々が迷い込む事があってはいけない。都は、焼き払われて然るべきだった。
 出水宮之門など、諸悪の根源。入念に打ち壊されるべくして、そうなった。
 しかし、この門がヤドリガミとして生を受けられたのは――ひとえに、その「土」であり続けた大岩の神性、磐戸大神によるものだろう。

 彼の親を、敢えて定めるならば。
 女神の母と、大岩の父、となる。
 そして彼は父によって救われ、母を殺す宿命にある。

・出水宮カガリの性格
 カガリがUC「死都之塞」を扱うのは、以上のような「出水宮之門」の特性によるもの。
 そしてその特性も、元はと言えば礎となっていた大岩のものである。
 また、彼が「強い意志で苦しみにも負けず立ち上がる英雄」を殊の外嫌悪するのは、自身がひとの意思を奪う「出水宮之門」であったことに加え、
 「英雄」となった結果(歪んだ形で認識していたとはいえ)壮絶な末期を辿った美香を知る為だろう。
 抑圧すれば、ひとは歯向かう。その歯向かおうとする意志ごと閉じてしまえば、眠るように苦しまず死んでいける。
 そのような策を弄するオブリビオンに、カガリは度々同調しそうになってしまう。
 しかし――それは、「出水宮之門」から見て、苦しんでいない、と見えるだけで。ひとから見れば、何の解放にもなっていない、と。
 猟兵として戦う中で、少しずつ学んでいる途中である。

 ちなみに、影朧と猟兵として対峙するまで、カガリは美香の存在と顛末は知っていたものの名前は覚えていなかった。門であったカガリにとって、壁の内に守るひととは、よくも悪くも群衆でしかなかったからだ。
基本情報
更新履歴
情報
作成日時:
2019/06/24 01:52:54
最終更新日時:
2020/01/19 04:48:41
記述種類:
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