なにかになった日 ヴィヴの出生 放浪編

作成日時: 2020/01/28 00:05:45
その少女には何もなかった、暖かな寝床も、その日を食べる食事も、金も、仕事も、名前でさえも。
牢獄はすでに崩れた、自分には自由がある、きっと星にも手が届く。そんな幻想はすぐさま脆くも崩れた。
牢獄は彼女から全てを奪っていたが外界の全てから彼女を守り、生きるのに必要なすべてを与えても居たのだ。そんなことにも気が付くのに時間がかかるほど彼女は幼く未熟だった。

数日歩くとそこには村があった。村だったものがあった。
廃村なのは少女にとって幸運である、半人半魔の痩せた少女とゾンビなど間違いなく半殺しでは済まないのだから──。
まず彼女は村中から食料と使えそうなものを集めることにした、しかしここで一つ問題が発生する。
そう、彼女は普通の食料など食べたことが無かったのだ。結果として食えるものも食えない物も齧る羽目になった、それこそ死体も土も家も。
ある程度食えるものが分かって来たところで彼女は使えそうなものを死体や廃屋から集めることにする。これまた知らないので総当たりで結局全て集めた。
死体の中には咎人殺しが居たらしくそういったものも自然と集まった。

数週間が立った。死肉を食み、虫を食らい、木の根を齧って暮らしていた彼女の前に初めての客が訪れる。
初めての客、咎人殺しはあっという間に4体のゾンビを倒し。他にゾンビはいないかを確認したらさっさとどこかに行ってしまった。
そう、この廃村にはもはや人が住める環境ではないのだ。木の根すら掘り返され死体と死体、食料の一つも存在しない。見て回るまでも無い、この村に生者は居ない。

何もないが故に生きていると思われなかった彼女は見ていた、その咎人殺しのその動きを、武器の使い方を。村の隅に転がっていたガラクタの一つに意味が生まれた。

そうして彼女は咎人殺しになった。モノマネで借り物をふるって食べられそうな獣を襲い齧り付き飢えを凌ぎ暮らす。ゾンビは寂しいと感じた時、振り向けば同じ4体がそこに居た。
新しい人間を見かけるたびにその行動を物陰から観察し、あとから真似る。少しづつ彼女は実験動物から人間に近づいて行った。

何時の頃からか街に繰り出し人間のように食料を買い、咎人殺しの仕事を貰い文明にも馴染んだ。読み書きも簡単なものは気が付いたら出来ていた。
この頃の彼女は如何に拷問を、他人の苦しみを、他人の死を日銭に替えられるかをのみを考えていた。何もないが故に最初に覚えたことが全てとなっていた。

思考はいらぬ、嗜好もいらぬ。試行し、施行し、淡々と仕事をこなす。今持っている全てだから。
そうしている間に数年が過ぎた。幼い体躯は一向に育たない。目は悪くないのに眼鏡が無ければ酷く頭痛がする。その癖体は人並み以上に動く。実にアンバランスだった。




その男は猟兵だった。陰気で使命感に突き動かされやりたくもない仕事をする。ダークセイヴァーではよく見かけるような、テンプレートのような咎人殺しの猟兵。
グリモア猟兵から派遣された彼の任務は人探し、猟兵たるべき人間を探しているかも分からない人を探すのだ。
と言っても咎人殺しの仕事の合間にする副業なのだ、彼はもくもくと西へ東へ咎人を探して処刑していく。

今日は探し人に出会えなかった。今日は探し人に出会えなかった。今日は探し人に出会えなかった。今日は探し人に出会えなかった。今日は探し人に出会えなかった。
きっと明日も出会えないだろう。彼は一人で咎人を殺し続けた。

ある時彼は同業者と仕事がブッキングした、一人で出来る仕事ばかり取っているというのにだ。
珍しい、少女の咎人殺しだ。正確には幼い少女の咎人殺しだ。女の咎人殺しなど昨今珍しくも無い。低年齢化も進んでいる。彼はダークセイヴァーもよいよ終わりだと思っているがあえて声には出さない。
しかしそれにしても若い、二桁も無いように見える。そして驚くべきことがもう一つ。彼女は彼の探し人だったのだ、会えばわかるとは言われて居たが本当に分かった。


少女は男に戸惑う、監獄を出てから初めて向けられた嫌悪でも無関心でもないその瞳に。その口の紡ぐ質問に。
名を聞かれたのだ。名前を。未だ持ちえぬものを。

男は首を傾げる。その少女は名前を聞いただけでうつむき後ずさるのだ。その首からはドックタグまで下げているのに。
ひょいとドックタグを見てやると掠れ一部読めないその銀の板に綴られていた文字を男は読み上げた「ヴィ…?ヴィヴクロックロックそれが君の名前か?」

彼女が名前を得たその瞬間であった。歪み掠れたドックタグに残っていた文字はVⅣ clock lock ただそれだけだった。
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2020/01/28 00:05:45
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