幽遠 那桜 前世

作成日時: 2020/12/29 13:32:28
🌸前世について
これは、幽遠 那桜自身知らない、転生前の話。
(たとえ児戯と謂れども、この想いは消ふことなく。第3章にて転生前の記憶を知る。
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=28597

生前の名前は「櫻葉 那桜(さくらば・なお)」。
「櫻葉 那紀(さくらば・なき)」を姉に持つ。
サクラミラージュ出身。裕福ではないが、貧困でもない程度の、見た目はごく普通の家庭。
幼い頃、父親と母親は離婚し、那紀と那桜は母親から暴力を振るわれていた。
殴る蹴るは日常で、酒瓶を投げる、水責め、刃物で切りつけられることもあった。
恐怖から、逃れることは出来なかったが、辛うじて二人で生きていた。

しかし、ある時、那紀と那桜は、二人で母親を殺害する。
表向き、事故に見せかけて。
計画は成功し、二人は母親を殺害した。
これは正しいこと。仕方なかったことだったんだもん。

那桜も、暴力によるストレスから、そう自分に言い聞かせる。
那紀はこれで母親から解放されたと酷く喜んだが、
那桜は母親を殺して、素直に喜べなかった。

本来なら、施設等に預けられるのだが、姉は15、那桜が11歳で、姉が自力で過ごすと言い始め、空き家を借りて過ごしていた。

暫くして、那紀に異変が起こる。
那紀は両親のいる子供を殺そうと笑顔で言い始めたのだ。
那桜は一瞬戸惑った。理性が殺人はいけないと警鐘を鳴らすも、姉が今までされた仕打ちを考えると、「幸せな家庭」に憎しみを抱くのも仕方がない。


最初の子供を殺し、次も殺して、殺して、殺して殺すうちに……
姉は既に、殺人鬼になっていた。
那桜も、徐々に警鐘を鳴らしていた理性は、殺す事による快楽へと変わり、いつしか笑顔で人を殺すようになっていた。
子供を対象とした殺人が聡明な姉の手で、子供によって行われていることなど分からず、警察組織も捜査を難航させていた。

ある時、那桜は次の標的を決める為に散歩に出かけた時のこと。
休憩に1人でベンチに座っていた時に、たまたま男の子が声をかけてくる。

「なんだか、寂しそうだったから」

不思議な男の子だった。純粋で、優しくて、歪んでしまった那桜と大違いで。
話す内に、男の子に惹かれるようになった。
気が付けば、男の子と会うためにいつものベンチに遊びに行くようになっていた。

その様子を、姉が見ているとも知らずに。

ある日、男の子は来なかった。そんな日もあるだろうし、過去にも来られなかった日はあったから……きっと今日もそういう日だろうと思っていたけれども、何故かこの日は胸騒ぎがしていた。
男の子が行きそうな所を探してみる。いない。
男の子の家に行ってみる。遊びに行ったと言って、今いないとの事。
どこに行ったのだろう。そう思った時に、ふと姉の顔が過ぎった。

……まさか。そんなはずは。

しかし、最悪を想定する。賢い姉がいつもやっていた事……姉なら、どこに行く?
薄暗く、人気のない路地裏、廃墟、神社裏、息を切らしながら走って探してみる。
夕暮れに差し掛かった時に、誰もいない建物の入口に──

──那紀がいた。殺人をやり終えた時の清々しい笑顔で。

那紀は那桜を守りたかった。酷い母の手から。
那紀は、那桜をたった1人の大切な妹として愛していた。
ただ、私達は幸せになりたくて。
でも、幸せになっている子供達を見たら、

いつの間にか、殺したくなっていた。

那紀の笑顔に、那桜は今まで感じたことがなかった恐怖と悪寒が走る。建物の中に入り──赤が、目に入った。

血溜まりに沈む、優しい男の子の身体があった。
「海斗君!!」

カイト、という名の男の子。海のように包み込むような優しさを……自分の名前は、そんな由来があると教えてくれた。
脈をみる、既に事切れており、身体は冷たくなっていた。
嫌な予感は、的中してしまったのだ。

自分の光だった彼が。死んだ。

──もう、戻らない。死んだ人は、生き返らない……

「うぁぁぁぁああああ!!!!!」

悲しみと怒りが思考を支配する。その矛先は那紀に向かい、那紀は想定と違う反応に、一瞬虚を突かれて──

──那紀が持っていた包丁を奪い、那紀の胸に突き刺した。

直ぐに那紀も抵抗しようとするも、心臓近くを刺されていたため、それが致命傷となり……絶命に至った。

動かなくなった姉。胸に刺さった包丁を再び抜き……

「……影朧になったら、桜の精によって癒されたら、転生出来るんだっけ。海斗君は転生出来るだろうけど……こんな私でも、転生、出来るのかなぁ」

刃を、自分の頸動脈に当てる。

「転生したら、何も知らない、無垢な桜になりたいなぁ……新しいものを沢山知って、気の向くままに、色んな所に遊びに行くんだ」

「……ごめんね、海斗君。今、そっちに行くから……」


迷うことなく、その刃を引く。

血飛沫が上がった。


冷たくなっていく体温の中、那桜は、震えながら海斗の指先に触れて……静かに息絶えた。


その後、海斗の家族による捜索願いを受けて警察が捜索し、その遺体と、犯人と思われる那紀と那桜の遺体が発見され、殺人鬼による一連の子供虐殺事件は幕を閉じるのだった。
基本情報
更新履歴
情報
作成日時:
2020/08/25 09:36:10
最終更新日時:
2020/12/29 13:32:28
記述種類:
標準

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