PBWめも
微笑の唇
作成日時: 2020/03/12 19:33:30
月曜日。
晃くんに水をかけられた。
「はぁ……」
「おいチビッ子」
「誰がチビだ」
「今からウチ来い。……服、貸してやる」
「え」
「んだよ、そのままじゃ帰れねぇだろ」
「や、うん……いや……それは、助かるけど……なんか意外」
「……よし、お前ならTシャツ一枚で足りそうだな」
「ふぁっ!?」
火曜日
転んで足を捻った。
「いったぁ……」
「なにしてんだお前」
「あ、紫崎くん。なんでこんなとこに」
「偶然だ偶然。……ん」
「え、なに」
「見てわかんだろ。乗れっつの、運んでやっから」
「いや、でも」
「遅ぇ」
「わっ!? ちょ、待って紫崎くんっ!」
「反論は聞かねぇ、帰るぞ」
「……せ……せめておんぶ……///」
水曜日
特に無かった筈なんだけど。
「おい豆猫」
「豆じゃない」
「猫は否定しなくなったな」
「……いいよ、もう。で、なに」
「これやる」
「え? なにこれ」
「それ持って土曜日ウチに来い」
「紫崎くん家に?」
「持ってくるだけでいい。待ってるからな」
「……うん……?」
木曜日。
晃くんに髪を切られた。
まぁ、少しで済んだけど。
「こんなもんか?」
「あ、うん、それくらいなら大丈夫。
短くなったの目立つ?」
「上手く隠してやるよ」
「えへへ、ありがと。
でも意外だなー、紫崎くんカットも出来たんだ」
「整えるだけならな」
「それでも充分だよ。プロ目指すわけじゃないんだし」
「……おい澪」
「ん、なぁに?」
「動くなよ」
「え、うん?」
「………よし。これ、明後日付けてこい」
「? ネックレス? なんでこんなの」
「いいから。ほら続きやんぞ」
「……うん」
金曜日。
この日は屋上で……。
「ねぇ、紫崎くん」
「なんだ」
「ほんとに、今週どうしたの?」
「なにが」
「や、なんか……よくよく考えるとやけに尽くされてる気が」
「……明日、全部教えてやる。あげたもん忘れんなよ」
「……うん……」
「……なんだ、一緒にサボるか? 腕なら空いてるぞ?」
「だっ、誰が添い寝なんてするかバカッ!///」
「やれやれ」
そして、土曜日。
「紫崎くん? 来たけど……」
『ああ、待ってろ。今開ける』
「うん……」
ガチャ
「よく来たな。ちゃんと全部持ってきたか?」
「うん、一応」
「いい子だ。
上着は俺がもらう。もう必要無いだろ?」
「そりゃあ、家の中じゃ必要無いだろうけど」
「荷物は」
「そんなに無いよ」
「ならいい。
ほら、ここに座って待ってろ。今なんか淹れてやる」
「あ、お、お構い無く」
「紅茶でいいか」
「……そんなお洒落なもの持ってたんだね」
「姉がな」
―――――-----
「そろそろ落ち着いたか」
「あ、うん……ありがとう」
「よし……ならこっちに来い」
「なにするの?」
「着替えだ」
「着替え? なんで」
「いいから。
っと……ほら、これ着ろ」
「なっ!?」
「んだよ」
「なんだよって、だっ、駄目だよ、こんなどう見ても高そうなドレス……ていうかなんでドレス!?」
「しのごの言わねぇでさっさと着ろ。
……それとも、俺が着せてあげましょうか?」
「う……なにそれ、なんの作戦?」
「さぁな。
で、どうすんだ?
自分で着るか俺に着せられるか」
「……じ、自分で…着る……」
「わかった。なら着替えたら声かけろ」
「……」
「……返事は」
「は、はい……」
数分後。
「……着替えた」
「じゃ、次は髪だな。ここ座って大人しくしてろ。
この間渡した髪飾りは」
「えっと、これ、だよね?」
「ああ、貸せ」
「……あのさ、この髪飾りとネックレス」
「俺が選んだ」
「ドレスは?」
「俺だ」
「……僕に、こんな可愛いの似合わないでしょ……お姫様じゃあるまいし」
「中々似合うと思うが?」
「……そもそもさ! なんで急に、こんな」
「寂しいだろ、お前」
「え?」
「最近」
「……べ、別に」
「付き合ってやるっつってんだ。
話でもなんでも。
今日だけはお前が俺の姫様だ」
「……なんで」
「俺は、お前の事ならなんでも知ってるぜ?」
「………」
「……うし、出来た。
このまま晩餐会に……とでも言いてぇとこだが、残念ながら今日は弁当しか無ぇんだ。
ドレスには合わんがそれで許せ」
「………うん」
「……ったく、なに泣いてんだよ」
「だって、紫崎くん……なんか……馬鹿みたい」
「あぁ?」
「ッ、ん……ありがと……」
「……ほら、見てみろ。
少しはまともに出来たと思うが?」
「……え……これ、僕……?」
「驚いたか」
「うん」
「さぁお姫様。
その気持ちが満たされるまで、私が何でも望みを叶えて差し上げましょう」
「紫崎くん」
「そのまま身を委ねればいい。
貴方は私に、選ばれた人だ」
「……はい。
よろしくお願いします……王子様」
この時に紫崎くんが見せた微笑みを、僕は一生忘れないだろう。
一週間に及ぶ不思議な夢の結末。
この後、尽くしてくれた報酬として美味しく頂かれたことも。
「紫崎くんの優しさは、もう二度と信じない…!」
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2020/03/12 19:33:30
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