Secret records-ある生還者かく語り

作成日時: 2021/09/21 21:41:35
なるほど、あの戦いについて話を聞きたいと。
つくづく物好きな方もいたものですね。

ええ、あの日のことはよく覚えています。
時期にして――2017年の6月あたりでしょうか。
いつものように寝転んで思慮にふけていたら、突然、辺りが騒がしくなってきまして……
起きてみたら、辺り一面が炎の海で、皆さん逃げていて。地獄のようでしたね。
あなたは考えられますか?寝る前は鳥の声も聞こえるほど平和だったのが、起きてみたら人の声で埋め尽くされた地獄になっているのを。

家々はみんな炎に包まれて、皆さんが兵の皆さんと交戦されて、巻き込まれて皆さんの悲鳴が上がって……
誰がこんなことをしたんだって興味本位で覗くことにしまして……
そしたら、指揮していたのは、紛れもなく――姫様でした。
目指すは王宮、王を、父様を殺しなさい、と声を上げる姫様は到底信じられなかったですね。
少し前まではこちらに微笑んだりして、仲良く会話までしていたというのに。

息をするだけできつかったし、胃が痛かったです。
目の前のこれは、信じたくないけど現実だ。ええ、絶望しましたとも。
きっと自分も殺される。だから、冥土の土産と言いますか……聞きたかったんです。姫様に。なんでこんなことしたのか。

襲っている皆さんの方へと向かったとたん、姫様は驚いたような顔をしました。
そして、とにかく王宮へ突撃しろ、と。そう命令を下し、こちらに歩み寄ってきました。
途端に声が大きくなりましたね。指揮していたのが姫様とわかったのですから。自分たちを見捨てたのか、と。
その声に何も答えないままただこちらを見つめていただけなので、思い切って聞いたんです。

「ねぇ、王女様」
小首を傾げながら。
「――あなたは、どうしてわたし達を見捨てたのですか」
聞いたんです。

すると姫様は歯噛みしてました。
「……ててない」
震えてるようなので近づくと、
「見捨ててない!私は、あんたらをむしろ救いたい!あの父様から!あんた達を!」
「教えてください姫様。救うってなんですか?わたし達はそこまで」
「違う!あんた達は何も悪くない!だけど……」

姫様は、手に持った剣で。
私の頬を斬りました。
――その時の、熱い感触と、姫様の震えてる手は、今でも忘れてません。
「……これは、戦争なのよ。クーデターなのよ。
私は可能な限りみんなを傷つけないように言ってる。でも……それでもこうなってしまうのね……」
……泣きながら言ったその言葉も、忘れられません。

姫様は私を門の方に向かせると言いました。
「行きなさい。その傷があれば亡命してきたとか言えば受け入れられるでしょ」
「でも、姫様」
「いいから!」
――姫様は、確実に。
「……地獄に落ちるのは私だけで十分。これは、必要悪なのよ」
――泣いていました。

気づけばわたしは走ってました。後ろに戦争の声を聞きながら、ひたすら――
そしてあと少しで門に、ってところで――転んでしまいました。

その後のことですか?よく覚えてません。
気がつけばここにいて、親切な方がわたしの傷を見てわたしを保護してくれました。
ある意味、「亡命」は成功したのかもしれませんね。

――ああ、でも願わくば。
また、あの国に行きたいですね。話してたらまた行きたくなっちゃいました。
え、その国の名前ですか?……うーん、覚えてませんねそういえば。
何せ、わたし旅人なもんで。訪れた国の名前なんて色々ありすぎて忘れちゃいましたから。

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作成日時:
2021/09/21 21:40:32
最終更新日時:
2021/09/21 21:41:35
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