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いじめっ子の真実〜夏輝視点〜
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少しだけいじめの描写があります。 平和に過ぎた小学校時代。 友人との別れを惜しんだ卒業式。 最後のクラス会ではいつものように馬鹿やって、門限ギリギリまで遊び歩いて。 沢山の思い出を胸に新たに始まった中学校生活。 入学式、生徒の列に並びながら、今度はここで頑張るんだって密かに意気込んでいたのに。 偶然、彼を見つけた。 最初は女の子かと思ってた。 学年の中でも圧倒的に小さくて、全体的に淡い色彩を持ったクラスメイト。 純粋に、可愛い子だと思った。 男だと知った時の衝撃も大きかったが。 同時に他の人には無い、不思議な魅力を持った子だとも思った。 自分から周囲に溶け込もうとせず、空の彼方を見つめる憂い気な瞳。 見た目に似合わず大人びた雰囲気があまりに綺麗で、気づいた時には声をかけていた。 『さっきからなに見てんの?』 『……えっと』 『あ、俺は小林夏輝。 皆にはなっちゃんって呼ばれてたし、それでいいよ』 『……僕は』 『栗花落澪、でしょ』 『え、なんで』 『さっき話した男子が噂してた。 超可愛い女の子がいるぅーって』 『なっ、僕は男ですっ!!』 『もう知ってるよ。 だから声かけたんだし』 『へ?』 『俺と、友達にならない?』 その時の彼の表情は今でも忘れない。 驚いたような、それでいて嬉しそうな。 中学校生活初めての友達というわけではなかったけれど、やっぱり今まで話した子の中で一番可愛いと思った。 だけどこの時、彼に目を付けたのは俺だけじゃなかった。 気づけばよかった。 俺達のすぐ後ろで、“悪魔”が嘲笑っていたことに。 帰り道、校舎を出るためにトイレの前を通ろうとして、思いきり引っ張り込まれた。 茶色い髪の優しそうな少年。 この後ろ姿クラスで見た。 確か、晃っていう名前の子。 今日話せなかった分明日話そうと思ってたところだから、正直驚いた。 個室に連れ込まれ、壁に押し付けられ。 その目が冷たく輝いたかと思うと、首筋にヒヤリとした感触。 恐る恐る視線をやると、そこには鋭利なカッターの刃が宛がわれていた。 どうしてこんなことになっているのかわからない。 ただ、その次に聞こえた言葉が嫌に耳に残った。 『君の可愛いお友達、明日から皆の玩具にするから。 逆らったら殺すよ』 本気だと思った。 産まれて初めて脅されて、体が震えるくらいに怖くて。 気づいた時には、頷いてしまっていた。 それが俺の、いや……俺達にとっての、地獄の始まりだった。 まずは澪との会話を禁止された。 あからさまな避け方をしたせいか、悲しそうに俯く彼。 これからのことを思うと心が痛くて、だけど悪魔に逆らう勇気は俺には無くて。 計画は休み時間に実行されたらしい。 悪魔と教室を出て行く彼と、その背を見送るしか出来ない俺。 他のクラスメイトと話して気を紛らわすことでしか、冷静さを保てなかった。 次に彼との接触を禁じられた。 彼の病気を知った直後。 突然目の前で倒れた彼に駆け寄ろうとして怒鳴られた。 彼の身になにが起きても、見捨てることを強制された。 それがたとえ、命に関わることでも。 続いて命じられたのはいじめへの積極的な荷担。 見ているだけでは済まなくなった。 友達になろうと誘ったのは俺なのに。 悪魔に命じられるまま、彼の華奢な体に傷をつけた。 この頃には参加者も増えていて、やっぱり皆脅されたのかなとか、騙されたのかなとか考えて。 だけど実際はそれだけじゃなくて、悪魔はいつの間にかクラスのリーダーになっていた。 奴に逆らうことは、クラスを敵に回すこと。 馬鹿な俺でも流石に気づく。 奴の機嫌を損ねることは、死刑宣告も同義だと。 もしかしたら表情に出てたのかもしれない。 あるいは彼の勘が鋭いだけか。 どんなに酷いことをしても、彼は俺にだけは優しい目を向けてくる。 何もかも見透かされているようで、怖くて、怖くて。 彼の思いから逃げるように、俺は彼に手をあげた。 何度も、何度も。 消えない痣が残るまで。 悪魔への忠誠を、自分自身にも言い聞かせるために。 それでもすべてを変えることはできなかった。 二学期になって、元々の性格もあってか呼び出し役に任命された俺は、その為の接触だけなら許可してもらえるようになった。 それをチャンスと捉えた俺は、やっぱりまだ悪魔に逆らいたかったのかもしれない。 言い訳を作っては話しかける。 言葉の節々に本音を滲ませながら、彼にだけは届くようにと。 手を貸したことも何度かあった。 保健室まで様子を見に行ったことも。 誰にも見つからないように、ごめんなさいの代わりに。 そんなある日、下駄箱に入ってた一通の手紙。 『信じてるから』 たった一言、丁寧な字で綴られていて。 涙が止まらなかった。 戦うつもりも無いくせに、こんな中途半端な伝え方で期待させて、裏切り続けるだけの自分のやり方が、卑怯者としか思えなくて。 ただただ、悔しくて。 それからは言葉で伝えるのをやめた。 一晩考えて出した結論。 結局楽な方を選んでしまった。 どちらに転んでも同じ地獄。 それでも澪と同じ場所には立てなかった。 期待させちゃいけない。 裏切るならとことんやらなきゃ。 その方がきっと、悲しませずに済む。 今までより冷たい言葉も吐いて。 最中は意図的に笑うようにして。 彼の目は絶対に見ないと決めて。 彼が少しでも嫌いやすいように。 俺を見放してくれるように。 いつものように呼び出して、悪魔の元へと連れていく。 その時は必ず手首を掴んで。 彼の手が強張るのがわかる。 離さないよう指先に力を込めた。 気づかれないように、彼の脈を肌に感じて。 全てを決めたあの日から続けている、俺だけの儀式。 届かなくてもいい。 二度と気づいてほしくない。 彼の命に安堵する毎日なんて、俺だけのものでいい。 一年以上が経った今。 俺は今日も彼の手首を掴む。 その命が続いていることの確認と、謝罪と後悔を乗せて。 抵抗されたことは一度も無い。 それが彼なりの優しさならば、俺も耐えなきゃいけないから。 いつか来る未来を信じて、共に地獄へ降りて行く。 もしもその時が来たのなら、いつでもこの手を引けるように。 これが俺の……夏輝の真実。
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