いじめっ子の真実〜鉄馬視点〜

作成日時: 2020/03/11 20:04:51
 俺には、護りたい人がいた。
 彼女の為ならなんだってしたかった。
 力をつけて、喧嘩も強くなって。
 この拳は彼女の為だけに使おうと、そう決めていた。

 誰にでもあるような正義感。
 この想いが仇になる日が来るなんて、思ってもいなかった。



【いじめっ子の真実~鉄馬の場合~】



 隣のクラスでいじめが起きている。
 そんな噂が俺の耳に届いたのは、入学式から僅か三日後のことだった。

 最初はくだらないと思った。
 どうせ集団で力を誇示するやり方でしか威厳を保てない、そんな奴らの集まりだろう。
 標的にされた奴は可哀想だが、俺には関係無い。
 彼女にさえ害が無ければどうでもいい。
 当時はそう考えていた。

 同じクラスになった彼女。
 一目惚れだった。
 小学校の時だ。
 勉強も運動も出来て見た目も可愛い彼女は、学年のアイドルだった。
 対して幼馴染みの宗田と二人でつるむ事の多かった俺は、不良コンビと呼ばれ恐れられていて。
 自然と増える単独行動。
 広まる対の狼の通り名。
 彼女だけだった。
 俺達とも分け隔て無く付き合ってくれたのは。

 同じ中学に来て、同じクラスになって。
 新しい環境になっても無防備なままの彼女を、俺が支えてやりたかった。
 彼女の無意識の優しさに、俺が救われたように。



 奴に誘われたのも、そんな時だった。
 いじめの主犯、堺晃。
 そいつから語られたのは、いじめられっ子の本性。
 その子の名前は栗花落澪。
 彼女をいじめていたことがあるらしい。
 俺は真っ先に否定した。
 小学校での彼女はいつも明るかったし、休み時間はいつも俺達と一緒に居た。
 第一栗花落なんて珍しい名字、学年名簿でも見た事がない。
 嘘を吐いていると思った。
 けれどその考えもすぐに揺らいだ。
 この後のそいつの言葉によって。



『プライベートまでは知らないだろ?』



 俺の気持ちを誰に聞いたのだろう。
 そいつは自信満々に言って意地悪く笑った。

 だから俺は本人に聞いた。
 そしたら彼女もそれを認めた。
 公園で偶然会って仲良くなって、休日には一緒に遊ぶようになって、だけど1ヶ月経ったくらいから段々……。
 つまりこういうことだ。
 彼女を信用させておいて、しまいにゃ裏切って傷つけたと。

 今思えば不自然な点はいくつもあった。
 彼女が俺と目を合わせなかったこと。
 彼女が小刻みに震えていたこと。
 そもそもこんな確認ができたのも、彼女が俺を待っていたからだ。
 いつも一緒にいる女友達がいなかった。
 多分、きっと……彼女も脅されていた。
 わかりやすいサインもあったのに、彼女は彼女なりに伝えてくれていたのに。
 俺はそれに、気づけなかった。

 晃の言葉を鵜呑みにして。
 彼女の為と言い訳して。
 いじめっ子達に加担してしまった。
 彼女と同じ痛みを、わからせてやりたかった。

 だが、三学期の終わり頃だろうか。
 俺はようやく違和感に気づき始めた。
 ただの復讐にしてはあまりにしつこく、内容的にも行きすぎているのではないかということ。
 そして、集まったいじめっ子一人一人が、違う理由を持っていたことだ。
 初めは自分の目的以外に興味は無く、他人と接点を持つことはしなかった。
 心変わりしたのはいじめっ子の一人、小林夏輝の一言がきっかけだ。



『あんたも、脅されたの?』



 たまたま晃が近くにいなかった故の問いだった。
 小林はいつも晃の傍に居るから。
 まるで見張られているかのように。
 俺の反応から違うと判断したのだろう、慌てて口止めをしてくる彼の様子が、あの日の彼女と被って。
 それ以来なるべく皆と接点を持つようにしてみると、矛盾はあっさり見つかった。
 目的が違うのは俺だけだ。
 みんな晃を恐れているように見えた。

 二年になって、メンバーに宗田が増えて。
 だが常に傍観者の立場を崩さない宗田に、思い切って晃への疑念をぶつけてみたところ、宗田は楽しげな表情を崩さないまま言った。



『狐は誰だろうな?』



 宗田はなにか知っている。
 同時に俺の中での疑いが、確信に変わった瞬間だった。
 だとしたら嘘をついた彼女も……。
 だがやめさせるには証拠が無い。
 気付けば学年全員が晃の味方。
 俺一人が抜けるのは簡単だが、ここまで関わってしまったんだ、そんな薄情なことはできない。

 そしたら宗田は更に続けた。



『考えがある。
 俺に任せとけ』



 宗田もまた、あの日の晃と同じ。
 自信に満ちた目をしていた。
 だから任せることにした。
 いつも通りに振る舞い続け、繰り返すこと数ヵ月。
 行動に出たのは、澪自身だった。
 その傍には不敵に笑う宗田の姿。
 ああ、なるほど。
 そういうことか。

 いじめられっ子は、ほんとは強い奴だった。
 一瞬で、気に入ってしまった。
 ああ、こいつなら友達としてやっていけるかもしれない。
 宗田も同じ気持ちみたいだし。
 護る対象を増やしてみるのも、たまにはいいもんだろう。

 対の狼を魅了した小さな子猫。
 可愛くも勇敢なその子猫は、今日も元気に鳴いている。
 自分が護られていることにも気づかぬまま。
 取り戻した笑顔は、壊れた世界を平和へと導いていく。

 今の俺にできる精一杯の償い。
 これが俺、鉄馬の真実。
基本情報
更新履歴
情報
作成日時:
2020/03/11 20:04:50
最終更新日時:
2020/03/11 20:04:51
記述種類:
標準

見出しリンク
更新履歴
2020/03/11 20:04:51