(仮)

作成日時: 2020/01/21 20:15:33
●夢見る心を再び胸に

「あははははは!」
「殺し殺され斬り斬られ」
「逝きつく果ては何処かしら?」

 桜花組の少女たちにかつてあったであろう心はもうありはしない。影朧である少女たちに今あるのは自分たちの存在を認めなかった世間への恨み。
 もちろんそれが逆恨みであると本来の少女たちはわかっていたはず。平和になった世界に兵器などない方がいいに決まっている。それでも目の前の少女たちは恨みの炎で心を燃やす。

 それがグラッジ弾によるものなのかはわからない。

「殺し合いがお望みならば受けて立つだけです」

 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は愛刀『魔法剣『緋月絢爛』』を構え少女たちを迎え撃つ。相手にも事情があることは想像できる。しかし今優先すべきはこの事件の解決。もしここで事件を解決できなければもっと多くの被害が出てしまう。

 それだけは絶対に避けなければならない。

「哀しい人たち……でもまだ希望は無くならない」

 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)が影朧の少女たちを見て抱いた感情は哀れ。少女たちもきっと本当ならば未来に夢見る心を持っていたはず。しかし影朧となり、身を焦がすような怨念に心を焼かれ、そんな心はもう無くなってしまった。
 だがまだ終わりではない。だから少女たちに思い出させる必要がある。

 夢と希望さえあればやり直せるのだということを。

 それこそが夢見る光の魔法王女である向日葵……否、シャイニーソレイユの役目なのだから。
 向日葵に宿る『グランドハート』が想いに応え光り輝く。それは大地を司る黄色ではなく、眩いほどの白。
 『グランドハート』の色に合わせ向日葵自身の姿もまた変わっていく。

「夢見る心を守る一輪の大花!白光の魔法王女・シャイニーソレイユブロンシュ!」

 向日葵の花のような黄色のドレスが純白へと変わる。それに伴い白く染まる瞳と髪。この姿こそ人々の夢見る心を守るシャイニーソレイユのもう一つの姿、シャイニーソレイユブロンシュである。

「例え姿が変わろうと!」
「舞え! 桜吹雪!」

 摩那と向日葵を囲うように展開した桜花組の少女たち。その手に握られた造花の桜を振るい巻き起こす鋼鉄の桜の花吹雪。それは桜色の津波となり2人を襲う。

「それは届かないよ」

 向日葵が手を翳すことで現れる無数の白い向日葵の花。それは魔法王女の想像から想像された無敵の盾『ソレイユ・シールド』。視界を埋め尽くす桜色の津波を白い向日葵の花が重なり合って受け止める。

「そして甘いッ!」

 突如として現れた摩那の一刀で斬り捨てられる一体の影朧。摩那は自身の刀に風の魔力を纏わせることで桜吹雪を蹴散らすことで桜色の津波の中を突き進んだ。

「貴女たちが転生を望むかは知りません。しかし殺し合いに負けるつもりも一切ありません」
「なっ———」

 摩那へ反撃の一撃を繰り出そうとした影朧の動きを止めたのは白色の光線。

「でも心だけは取り戻してもらうわ」

 それは向日葵の展開した『ソレイユ・シールド』から放たれたソレイユビーム。白い向日葵の花は攻撃を防ぐ盾であり、同時に悪しきモノを撃ち貫く矛でもあった。そして今はもう一つの役目もある。
 展開した向日葵の花を足場に向日葵は高速で飛翔する。盾であり、矛であり、足場である白い向日葵の花は影朧を囲うように咲き誇る。

「心なんて!」

 鋼鉄の桜吹雪が舞い散ろうと向日葵の花が受け止める。

「要らないの!」

 傷ついた仲間を癒す桜吹雪が巻き起ころうと摩那の紡ぐ風が吹き飛ばす。

「貴女たちにも理由はあったはずです。殺す理由ではなく戦う理由が」

 桜の花びらを吹き飛ばされ、無防備となった影朧へ風を纏う一太刀が斬り付ける。

「どうして戦おうと思ったのか思い出すのよ」

 近づいてきた相手へ鋼鉄の桜で創り上げた刀を振るおうとガントレットで受け流されカウンターの拳が叩き込まれる。

「そんな……」
「そんなものは……」

 こちらの攻撃が全て防がれることよりも。
 こちらの防御を上回る攻撃をされるよりも。

 語り掛けられる言葉が一番『痛い』理由が影朧たちにはわからない。

 斬られ、殴られ、刺され、蹴られ。
 もはやこの高速戦闘に影朧の少女たちはついていけていなかった。元より疑似幻朧桜の力を寿命を代償に引き出していただけの少女たち。影朧となろうと爆発的に身体能力が向上したわけでもない。

 少女たちは国を護るために自らの身を犠牲としたに過ぎないのだから。

 しかしその事実を覚えている者は最早いない。少女たちですら覚えてはいない。だからこそもう解放するのだ。
 新たなる生を少女たちへと贈るために。


 風を纏いし剣戟と光を纏いし拳が影朧の少女たちを撃ち貫く。
 桜の花びらとなり消えていく少女たち。消える刹那にその脳裏に浮かぶのは彼女たちの物であり彼女たちの物ではないナニカ。


 この世界を恨んだ少女たちは大切な何かを思い出し、桜吹雪となり消え去った。