(仮)

作成日時: 2020/01/14 19:31:51
●●突き進む者たち

 時は警報が鳴る数分前に遡る。

「それじゃあ真正面から行くのよ」
「速度重視だな」
「うん、僕は援護に徹しよう」

 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)、エルス・クロウディス(昔日の残響・f11252)、アルビレオ・ゴードン(Nostallgia・f16391)の3人の猟兵が研究施設の入り口に立っていた。
 本来いたはずの見張りは既に意識を失い壁に凭れ掛かるように座らされていた。この3人は先に潜入した猟兵たちとは違い、実力を以ってこの施設を蹂躙するためにここに来た。

「それじゃあ僕はあそこにいるから」

 そうアルビレオが指をさしたのは研究所から離れた位置にある百貨店の屋上。今日は定休日ということでお客がいないそこは絶好の狙撃場所だった。一流の狙撃手たるアルビレオにとっては。

「お任せするの」
「んで、俺たちはその援護を受けて中へ突入だな」
「うん、魔法王女の前で悪事は成功することはないよ。母なる大地に咲く、一輪の大花! 輝く大地の魔法王女! シャイニーソレイユ!」

 『グランドハート』が向日葵の心に共鳴し、眩き光と共に瞬く間に向日葵の姿が変わる。自分自身を信じ続けることで向日葵はただの女子中学生から【母なる大地の魔法王女】、シャイニーソレイユへ変身する。

「気合も十分だな……行くぞ!」

 入口を蹴破り警報が鳴り響く中、向日葵とエルスは研究所の中へ突入した。


「っと、一応やっておくか」
「何をしているの?」

 突入したエルスだったが扉を潜ると立ち止まり、そこで砂鉄に似た性質を持ち、自在に変形出来る特異な骸装『骸装:逆綴』を展開する。今回数ある骸装の中でこれを選んだのは切り離して運用することができるという利点が今回最も活躍できると判断したからである。
 逆綴の一部を切り離し。出入り口に踏んだ衝撃で棘を伸ばす罠を作っておく。これで研究所の中から逃げようとした者は足を取られこの研究所から出ることはできない。

「罠を張っといた。あの人がいれば多分いらないけど念のため」
「できることはしておいた方がいいわ。それに、逃がさないためならここまでしないと」

 向日葵の鳴らした指に従い隆起する床。瞬く間に2人が潜った出入口に出来上がる巨大な土壁。この壁を越えなければここからこの研究所の外には出られなくなったということだ。

「……お見事」
「さぁ、行きましょう」



「来たぞ! こっちだ!」
「くそっ! 撃て撃て!」

 警報が鳴り響く中、逃げだすこともできなくなった幻朧戦線の者たちは必死の抵抗を重ねていた。グラッジ弾でこそないが鉛の弾を盛大にバラ撒きこちらへ向かって来る侵入者たちを撃ち続ける。

「なんで効かないんだ!」
「あの花のせいだ!」

 しかしその弾丸が向日葵とエルスに届くことはなく、全て向日葵のかざした魔法陣から創り上げられた大きな黄色い向日葵の花『ソレイユ・シールド』に阻まれる。

「よっ、と」
「ぐぁぁあああ!」
「なに!?」

 その隙にエルスが逆綴を鞭状に伸ばし幻朧戦線の者たちが持つ銃を叩き落す。遠距離からの攻撃がなくなってしまえばあとは近づき制圧してしまえばいい。

「くそぉ!」
「―――はい」

 例え相手がナイフを持って斬りかかりに来ようと向日葵はその手を受け流し、手刀でナイフを叩き落とす。あとは周囲にいる関係者全員を『プリンセスチェイン』で一網打尽にすればこの一角の制圧は完了する。

「えーっと……影朧がいるのはこの先みたいだな」
「早く助けてあげないと」
「他のやつらはどうしたんだ……」

 他の関係者がどうなったのかというと先に潜入した猟兵の手により眠らされた者や洗脳されこの施設内を暴れまわっている者。そして出口が封鎖されたと知って尚逃げ出そうとした者がいた。

 この中で一番悲惨だったのは逃げようとした者たちだろう。
 逃げ出そうと施設の中を走る中で罠に足を貫かれ、伸びてきた鎖で絡めとられる。
 なんとか外へと繋がる窓へたどり着いてそこから外へ出ることができたとしても。

「いてぇ!」

そこに待っているのは魔弾の射手の放つ弾丸。足を貫かれ、歩くこともできなくなり痛みに藻掻きながら施設の庭に転がるしかない。

「再びの騒乱。それも関係ないモノを巻き込んで、だなんて勝手なことを言うもんだよ」

 そう呟きながらも白い羽飾りが括りついた黒いスナイパーライフルを構える姿は微動だにせず、ただ黙々と引き金を引く。この平和な世を護るために。それを脅かす者たちを逃がさぬために。

「他者を巻き込むくらいなら、君たちだけでやればいい」

 【魔弾の射手は影を踏む】。逃げ出そうとした臆病者は影を踏まれ立ち止まる。


「よし、これで影朧が捕まってる辺りは掃除完了っと」
「なら次は本命のアレね。場所は?」
「大体の目星はついてるが……ってとこだ」

 捕えられ、眠らされていた影朧たちを逃がすための準備も整った。しかし肝心のグラッジ弾がどこにあるかが未だつかめていない。潜入した猟兵たちからそれらしき情報をもらってはいるが確証がないという現状。

「……うん、そうみたい」

 向日葵が大地から直接聞いてもそれらしき場所はわからない。よほど巧妙に隠しているのだろう。
 とはいえこの研究施設にまだ残っている者はそう多くはない。このまま探し続ければいつかグラッジ弾には辿り着く。

「奥へ進むしかないってわけだ」
「急ぎましょう。早くグラッジ弾を回収しないといけないわ」


 もう逃げ出させる者も残ってはいない。帝都桜學府に連絡し幻朧戦線の関係者の回収を依頼。アルビレオも援護を終えて合流すると3人は研究施設のさらに奥へと進んでいく。


 研究施設の奥深くで眠る恨みの弾丸。再びの戦乱を起こさぬため猟兵たちはソレを