サヨコさんの経歴

作成日時: 2023/11/23 22:49:12
※絶賛編集中
※可能な限り公式設定とすり合わせようとしてはみていますが、アンオフィに踏み込んでいる箇所があります

・1935年1月25日:
横須賀にて洋食屋を営む家庭で、人間として出生。
当時の名前は『朝倉・陽菜子』(あさくら・ひなこ)だった。
年の離れた兄に次ぐ第二子であり、家族全員からお姫様のようにかわいがられて育つ幼少期だった。

・1940年8月:
前年から出征していた兄が戦死。
零式英霊機としての復活に成功するものの、すぐに前線勤務に移されており、家族との接触は僅かだった。
だがその短い時間の中で、陽菜子は戦死と転生を遂げた兄と、彼を生きた神のように称える両親の姿を瞳に焼き付けた。
そうして、零式英霊機への強い憧れを心に刻まれることとなるのである。

・1941年2月:
両親が肺結核により立て続けに死亡。
陽菜子は当時すでに一部で始まっていたBCG接種を受けており無事だった。
しかし兄からの便りはなく、祖父母も既に亡くなっており、さらに親戚筋も遠く離れた呉にしかいない八方塞がりの状況に陥る。
結果、陽菜子は6歳にして孤児として生きることを余儀なくされた。

・1941年3月:
幸か不幸か、頼るものがない生活は意外と早く終わりを迎えた。
孤児の保護を名目に活動する憲兵に発見され、官営の孤児院に収容されたからだ。
そこは身寄りのない子供に海戦装姫の訓練を施して出征に導き、戦死後は零式英霊機とする施設だった。
近代国家の常識として、少年兵が動員されることはない。
ヤ・ウマトの艦船は「海戦で破壊される」のが目的であり、それ自体による勝利を必要としていないことや、
小柄な子供は狭い艦内にも大量に詰め込める点から、このような異常がまかり通っていたのである。

・1941年4月~1944年3月:
兵士としての基礎教育の中で、陽菜子は思わぬ才能を開花させ、驚くべき速さで必要な能力を身に着けていった。
何の素養もなく6歳で訓練を受け始めた彼女は、初等および中等教育相当の教養学習を含めて育成に7年前後を要すると考えられていたが、僅か3年で全課程を修了。
9歳にして、中高生に相当する年齢の同輩と共に神奈川県沖に出征することとなる。
この時期の陽菜子は零式英霊機への憧れを強く抱いており、戦場の悲惨さやヤ・ウマトの真実も知らない。
だからこそ、過酷で理不尽な訓練も心を殺して乗り越えることが出来てしまったのだ。
なお、両親から受け継いだ料理の腕前もこの時期に片鱗を見せており、野営や航海の訓練時に炊事当番になると大人気だった。

・1944年4月~5月:
復讐者による攻略が始まる以前、ヤ・ウマトとTOKYOエゼキエル戦争の境界地帯では、TOKYO側の境界守護者『黙示録の大悪魔マスターテリオン』がまだ存命だった。
陽菜子が乗艦したのは、このマスターテリオンと対決する冥海機のための支援艦隊である。
この時、陽菜子を含む幾つかの「優秀かつ小柄である」(=生存に要する空間や酸素量が少ない)兵士に、特殊な任務が与えられた。
彼女たちは潜水艦型の海戦装を支給され、アークデーモンと冥海機の戦闘の隙を縫って、TOKYOエゼキエル戦争側への渡航・上陸を試みようとしたのだ。

結論から言うと、この作戦は失敗に終わった。
マスターテリオンとその配下のアークデーモンによる防御の分厚さは、海の下を潜り抜けられるようなものではなかったからだ。
ヤ・ウマト軍部も「最悪作戦が成功せずとも、戦死者を増やしつつ、TOKYOエゼキエル戦争の諜報が不可能であることが分かればよい」構えだった。
トループス級『海魔デビルフィッシュ』に絡みつかれ、海を赤く染めるマスターテリオンの『穢れし冒涜の血』に呑まれ、朝倉・陽菜子の生涯は終わった。
なお、この時のトラウマが残っているため、現在もタコやイカを嫌っている。

・1944年6月:
戦死した陽菜子の魂は何らかの方法(たぶん攻略が進んだらわかるだろう)で回収され、横須賀の工廠で零式英霊機へと定着させられた。
通常の英霊機素体は定着した魂に合わせて容姿が形成されるが、この時に用いられたのは、初めからある人物の姿に似せられた特製のもの。
その人物とは『月鏡・小夜子』(つきかがみ・さよこ)──抜刀術の宗家に生を受けた軍高官の父と、母を名乗る冥海機との間に育った少女である。

・1944年6月~1945年4月:
月鏡家の教育方針は「愛娘に強力な冥海機への道を歩ませる」ことに尽きた。
そして、『朝倉・陽菜子』の要素が転生した少女に求められることはなかった。
彼女は飽くまでも『月鏡・小夜子』なので、当然である。
口調や振る舞いを根本的に改め、未来の指導層に相応しい冷厳な態度を強制された。
その結果、今となっては『朝倉・陽菜子』だった時にどのような口調や思考様式を備えていたかを思い出せない。
先述したトラウマのような強烈な体験を除けば、ただ伝聞の如く行動と結果の情報が残っているだけだ。

かくして約一年に渡って、少女は月鏡家の娘としてあるべき日常を送る。
それはヤ・ウマトの幹部候補として相応しい在り方を醸成するために、人の心身を殺していく工程だった。
一族の嗜みとして習得させられた抜刀術による不穏分子の処刑。
黄金海賊船エルドラードとの交戦、敵船に乗せられた人間の船員との殺し合い。
魂が「人間ではない」自分を受け容れられるように形を変えていくほどに、躯体も兵器として最適化されていった。

ただそんな生活の中にも、ささやかな癒しはあった。
転生前後で偶然にも共通の好物であったため、時折飲む機会があったラムネ。
声を張り上げ、心を開く合法的な機会となった軍歌の歌唱。
そして冥海機に随行するための自律兵器に改造された『月鏡・小夜子』の愛犬、桂の存在である。
桂は主人の魂が変わってしまったことを動物的な本能で察し、今の少女には距離を置いた、よそよそしい態度を取るようになっていた。
だが彼女にとっては、その態度こそが嬉しかったのだ。
自分が『月鏡・小夜子』ではないことを当然のこととして受け入れてくれる、ただ唯一の存在だったから。

・1945年5月:
いよいよ機は熟したと見なされ、少女は冥海機に生まれ変わるための最期の海戦に出征した。
後に新宿島で使用することになる特注の海戦装≪巡洋戦艦海戦装『黒姫』≫を身に纏って。
そこで対峙したアビスローバーのパラドクスによって、彼女が為す術なく敗れた時、その残骸はパラドクスの力で輝き冥海機へと変質していくかのように見えた。
刹那、放たれた反撃がアビスローバーを粉砕し、海の藻屑へと変える。
その光景を目にしたトループス級冥海機たちは、新たな仲間の誕生に歓喜して少女の下に駆け寄り――瞬く間に、一閃された。

実は本物の『月鏡・小夜子』が零式英霊機への転生に失敗したのは、彼女の魂が死の間際に微弱な復讐者としての素質に目覚めたからだった。
それは排斥力によって消滅する極めて儚い力に過ぎなかったが、転生を拒絶し、存在の消滅と引き換えに自らの力をより復讐者に適した「誰か」に託すぐらいのことは出来た。
通常であれば、その力は最終人類史へと流れ着いたのであろうが――魂の波長が似て、同じく微弱な素質を持っていた陽菜子が存在したために、彼女に引き寄せられたのである。
宿った力は皮肉にも、『月鏡・小夜子』であることを強制され続ける日々のおかげで少女の魂に深く定着していった。
そして死に瀕する窮地を引き金として、完全な復讐者の力として目覚めたのだ。

だが娘の覚醒を見届けるために戦場に出ていた「母」――クロノス級冥海機は、この状況を見逃さなかった。
時間をかけて育ててきた娘が規格外品だった事実は彼女の動揺を誘ったものの、それは覚醒したての復讐者と強力なクロノス級の実力差を埋めるほどの要素ではない。
程なくして、『月鏡・小夜子』の存在は、歴史改竄に対する無為な抵抗のひとつとして抹消されるのだった。

・2023年6月4日(冥海機ヤ・ウマトにおける1947年):
最終人類史に冥海機ヤ・ウマトの復讐者が漂着するようになった数日後、少女は東京都の浜辺に漂着した。
沿岸警備員に救助されると共に説明を受け、復讐者という存在と現状についての理解を得る。
そしてパラドクストレインで新宿に降り立った少女は、最終人類史での戸籍を登録する際に自らの名をこう書いた。
『月鏡・サヨコ』――『朝倉・陽菜子』でも『月鏡・小夜子』でもない、何者かとして。