挿話

作成日時: 2019/03/10 02:56:03
花世/f11024と

咲う枝に寄せて返すひとの声
游ぐ花弁の行く先追って
ふと視線が交わるならば

やあすっかり、夢見心地かしら
問えば返る声に笑って
穏やかに止まるのは傍らに
そうして落ちる影の輪郭すら春の彩で
――あなたの知る季節は違ったかしら

傾げて瞬き、綻ぶのは、桜ばかりでないでしょう
そんならこれは、生まれたばかりの春だもの
もう繰り返せぬ産声を、きっと寿いましょうな
その須臾さえ刻むよう、眸のうちに刻みましょ

そうな、
光の輪郭を振り仰ぎ
指先ごと春を両手で包んだならば
あなたが、呼んでくださるなら
ねえ、花世
春の温度を、ひとつぶん